プレスリリース

全国の固形がん治療医1,300人に調査~「がん遺伝子パネル検査」の普及率は増加 一方、治療に繋がる確率の低さや、医師の負担に課題

臨床医視点で見る「がん遺伝子パネル検査」の進展と課題

株式会社インテージヘルスケア(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:村井啓太)は、全国の固形がん治療医約1,300人を対象に、がん遺伝子パネル検査(※1)に関する実態を調査しました。本調査は2019年6月に第1回を実施し、以降定期的に調査を行い、今回2024年10月が9回目となります。 なお本データの一部を、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会にて発表いたしました。

※1:1回の検査で数十~数百の遺伝子を同時に調べることができる遺伝子検査。高速かつ大量に解析可能な次世代シークエンサーが用いられ、見つかった遺伝子変異に対して効果が期待できる治療の有無を検討する。今回は包括的ゲノムプロファイリング(CGP)の名称で医師に聴取

ポイント

  • がん遺伝子パネル検査の流れに関する認知率と実施医師の割合は5年前と比較して増加。しかしながら、がんゲノム医療病院(※2)とそれ以外の病院で差が見られた
  • がん遺伝子パネル検査の適応となる患者のうち、医師が説明を実施した患者の割合は61%。適応となる全ての患者に説明がされていない
  • がん遺伝子パネル検査が全ての患者へ説明されていない理由は、医師の治療に繋がる確率の低さへの懸念と、エキスパートパネル(※3)の負担

※2:「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」「がんゲノム医療連携病院」
※3:がん遺伝子パネル検査で得られた結果が、臨床上どのような意味を持つのかを解釈するための会議

1.がん遺伝子パネル検査の流れに関する認知率と実施医師割合は5年前と比較して増加。しかしながら、がんゲノム医療病院とそれ以外の病院では差が見られた

全国の固形がんを治療している医師、約1,300人に「がん遺伝子パネル検査の流れに関する認知率」を確認しました。回答した医師を「がんゲノム中核拠点病院」「がんゲノム拠点病院」「がんゲノム連携病院」「それ以外の病院」の所属施設形態に分けて実態を確認したところ、いずれの施設でも、2019年から2024年にかけて「がん遺伝子パネル検査の流れに関する認知率」が増加していました。
施設形態別の結果を比較すると、がんゲノム医療病院はそれ以外の病院に比べてがん遺伝子パネル検査の保険診療が開始された2019年時点から認知率が高く、現在もなお、施設間で差があることが分かりました。
また、直近1年間で1人以上の患者に「がん遺伝子パネル検査を実施した」という医師の割合も、認知率同様に2019年から2024年にかけて増加していましたが、がんゲノム医療病院とそれ以外の施設で差が見られました。

 2.がん遺伝子パネル検査の適応となる患者のうち、説明をしている患者の割合は61%。適応となる全ての患者に説明がされていない

 がん遺伝子パネル検査の適応となる患者(※4)のうち「がん遺伝子パネル検査の説明をした患者」の割合を確認した所、患者全体の61%でした。医師は適応となる全ての患者にがん遺伝子パネル検査の説明をしておらず、患者の治療機会の損失に繋がっている可能性が示唆されました。

※4:標準治療終了(見込み)、および標準治療が確立されておらず、臨床試験等の組み入れも考慮し全身状態や臓器機能が良好な患者

3.がん遺伝子パネル検査が全ての患者に説明されていない理由は、医師の治療に繋がる確率の低さへの懸念と、エキスパートパネルの負担

がん遺伝子パネル検査の適応となる全ての患者に説明がされていない背景を明らかにするため、治療薬が見つからない、参加できる治験が無い、などの「治療到達度への懸念」を確認しました。その結果、全体の48%が「懸念がある」という回答でした。
併せて、がんゲノム医療病院に所属し、エキスパートパネルに参加している医師に「エキスパートパネル開催の負担」を確認しました。その結果、95%がエキスパートパネルの開催が負担だと感じている、と回答しました。更に、「通常業務に影響を与えるほど負担に感じている」の割合は33%に上りました。
これらの結果から、がん遺伝子パネル検査の普及率は増加しているものの、医師の治療到達度の低さへの懸念や、エキスパートパネルの負担が、患者への説明の大きな障壁になっていることが示唆されます。

治療到達度の低さに関しては、国内で参加可能な治験の少なさや、都市部と地方間のエリア問題も要因の一つであることが考えられます。そこで、「治療到達度に懸念あり」と回答した医師に患者が定期的に医療機関へ来院不要な治験の手法である「分散型臨床試験(以下、DCT)の認知率」を確認しました。その結果、DCTを「詳細まで知っている」の割合は、8%に留まる結果でした。

考察

当社がこれまで行ってきた調査により、2019年にがんゲノム医療が保険適用となって以来、がん遺伝子パネル検査の認知率および実施率は年々増加しているものの、がんゲノム医療病院とその他の病院との間では差が見られることが明らかになりました。施設形態に応じたがん遺伝子パネル検査の浸透度には、未だ課題が残される結果となりました。

加えて、がん遺伝子パネル検査の適応があるにもかかわらず、検査の説明が行われていない患者が多数存在することがわかりました。この背景には、医師が、がん遺伝子パネル検査を実施する負担の大きさと、患者の治療到達度のバランスが取れていないと感じている可能性があることが示唆されました。

治療到達度の低さに関しては、国内の参加可能な治験の少なさや都市部と地方間のエリア問題も要因の一つであることが考えられます。この課題払拭のため登場したDCTですが、詳細まで認知している医師は1割に満たないという結果でした。また、エキスパートパネル等にかかるがん遺伝子パネル検査の負担効率化の施策は、現時点で約半数程度の導入率に留まっており、DCTの認知拡大や医師の負担軽減施策の推進の必要性があるのではないかと考えられます。

患者視点の調査結果(※5)からは、患者のがん遺伝子パネル検査の認知や理解が十分ではなく、検査の説明内容の解釈には医師と患者で乖離が見られることが示されています。

患者側も医師同様に「治療選択肢の増加」に対するニーズが最も高いことが示され、がん遺伝子パネル検査を受けた後の治療薬がない、という本質的な問題が浮き彫りとなりました。また、患者の「検査を受けた後治療薬が見つかって欲しい」や「がん遺伝子パネル検査の情報を知りたい」などの要望を認識した医師は、患者にがん遺伝子パネル検査を積極的に提案したいと考えているということが示唆されました。

これら医師・患者調査の両面より、がん遺伝子パネル検査を受けるべき患者の治療機会を逃さないための環境整備が求められています。これには、医師の負担削減や意欲向上に向けた改善策に加えて、制度の見直しのような抜本的な改善が必要なのではないでしょうか。インテージヘルスケアでは、今後も医師と患者、双方の視点から、がん遺伝子パネル検査の実態の動向を確認していきます。

※5:2024年実施の患者視点のがん遺伝子パネル検査に関する調査(本調査の一部を第22回日本臨床腫瘍学会学術集会にて発表)

分析担当:ヘルスケアマーケティング部 スペシャリティグループ 五十嵐彩香

調査概要

調査方法Webアンケート調査
調査地域全国
調査対象固形がん治療医
有効回答数第9回:1,330サンプル
調査実施期間第9回: 2024年10月8日~15日
調査主体株式会社インテージヘルスケア
ヘルスケアマーケティング部
調査内容がん遺伝子パネル検査(悪性腫瘍の遺伝子検査)の浸透度把握
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