60名の血液がん患者にヒアリング調査を実施
頼りにしている情報源は「主治医」
「新薬開発」に加えて製薬企業へ期待することとは?
当社は、「かながわ血液がんフォーラム(主催:認定NPO法人キャンサーネットジャパン)」に来場した血液がん患者とその家族を対象に、「病気や治療の情報を入手するために頼りにしている情報源」や「製薬企業に期待すること」について、ヒアリング調査を実施しました。
調査結果
1.血液がん患者が、病気や治療の情報を入手するために最も頼りにしているのは「かかりつけ医(主治医)」で38%。次いで32%の患者が「医療機関(病院・医院)サイト」を頼りにしている。
血液がんは、多くの疾患・病型に分類され、分類毎の患者数が少ない疾患であるため、患者は、症状・進行度など患者自身の状況に当てはまる情報の入手が難しいと感じている実情があります。これらの背景から、38%の患者が自身の状況を理解している「かかりつけ医(主治医)」を頼りにしていると回答したと考えられます。
また、32%の患者が「医療機関(病院・医院)サイト」に該当する「国立がん研究センターのがん情報サービス(以下、がん情報サービス)」を「頼りにしている」と回答しており、公的な機関がエビデンスに基づいて発信する情報は一定の患者に届けられていると考えられます。
さらに、「もっと知りたいこと」を聞いたところ、22%の患者が「同じ疾患・病型の患者からの情報」と回答しています。「同じ疾患・病型の患者」と繋がることで、自身の状況に当てはまる情報の入手を期待しているようです。また、「同じ疾患・病型の患者」には、情報の入手だけでなく「想いに共感したい」など心の繋がりを求める意見も多くありました。
2.国立がん研究センターの「がん情報サービス」を「頼りにしている」理由は「安心感」。一方、製薬企業のサイトは、利用はされているが「頼りにしている」と回答した患者は3%。
32%の患者が、「がん情報サービス」を「頼りにしている」と回答していますが、その理由は、次のように「安心感」という回答が多くありました。
【「がん情報サービス」を「頼りにしている」と回答した理由】
・「一番たくさん患者の体験を見ていて、一番情報を持っている。公平なものだと思う」(60代女性、多発性骨髄腫、患者)
・「講演会でサイト作成者の話を聞いているので安心できる」(50代女性、セザリー症候群、患者)
「製薬企業のサイト」を「利用したことがある」と回答した28%のうち、「頼りにしている」と回答した患者は、3%という結果となりました。その理由として次のような回答があり、一部の患者においては「不安感」を持たれている可能性があります。
【「製薬企業のサイト」を「頼りにしにくい」と回答した理由】
・「製薬企業のサイトは利益優先のイメージがあって不安」(60代男性、濾胞性リンパ腫、患者家族)
・「製薬企業のサイトの中には医療関係者しか訪問できないページがあり、隠しているのかな、と思うときがある」(50代女性、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、患者)
3.「血液がん患者のためにがんばっていると感じる製薬企業」の一位はセルジーン。
全体の4割の患者が具体的な企業を回答。その主な理由は「自身の疾患・病型に有効な薬を開発している」だが、製薬企業が発信する情報を評価する意見も。
「血液がん患者のためにがんばっていると感じる製薬企業」を選んだ多くの患者がその理由を「自身の疾患・病型に有効な薬を開発していること」と回答しています。
【「血液がん患者のためにがんばっていると感じる」理由】
・「自分が使っている薬の会社。すごい薬だと思う」(60代女性、多発性骨髄腫、患者)
・「自分を治す薬を作ってくれる。特に予後が劇的に改善された」(50代女性、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、患者)
また、薬の詳しい情報を医療者からの説明や小冊子を通して入手したり、製薬企業のWebサイトを直接見ることで、「製薬企業ががんばっていると感じる」と回答した患者もいました。
【「血液がん患者のためにがんばっていると感じる」理由(少数意見)】
・「薬をもらうだけでなく、詳しい説明のある薬のメーカーは信頼できる」(60代女性、多発性骨髄腫、患者)
・「病院からもらう冊子を作っている製薬企業」(60代女性、多発性骨髄腫、患者)
・「企業として個別の患者にアプローチできない分、自社サイト上で必要な情報を分かりやすく公開している」(60代女性、急性リンパ性白血病、患者)
4.患者は、製薬企業に「自身の疾患・病型に有効な新薬の開発」を期待している一方、「薬剤費の自己負担や医療保険財政への影響は軽減してほしい」と考えている。
「製薬企業に期待すること」の質問においては、自身の疾患・病型に有効な新薬の開発と回答する患者が多くいました。
【製薬企業に期待すること(新薬の開発)】
・「新薬の開発について、お金のこともあると思うが、開発の進捗に一喜一憂している患者がいることを知って欲しい」(50代女性、マントル細胞リンパ腫、患者)
・「少ない患者の疾患でも、少しでも広く適応をとってほしい」(50代女性、小リンパ球性リンパ腫、患者)
・「血液がんの患者数は少ないから、薬のニーズも少なく、高額になりやすいが、早く治験をしてより良い薬を安く世の中に出してほしい」(50代男性、急性骨髄性白血病、患者)
血液がんは患者数が少なく、かつ革新的な薬が多いことから薬価が高くなる傾向にあります。そのため、特に継続して服用する薬においては、毎月の薬剤費が負担になっているとの意見がありました。また、メディアでも話題になるような高額薬価の薬においては、自身の薬剤費負担だけでなく、医療保険財政への影響を懸念する回答もありました。
【製薬企業に期待すること(薬剤費負担の軽減)】
・「退院した後も薬は継続して飲む。高額医療費制度のぎりぎり上限くらいの出費がずっと続くのは厳しい。病院に支払うお金より、薬局に支払うお金のほうが高い」(40代女性、急性リンパ性白血病、患者)
・「皆保険の負担になりたくないので、私は高い薬は使わない。そういう患者がそれなりにいることを理解してほしい。お金より命と言っても続かなければ意味がない」(40代女性、急性リンパ性白血病、患者)
【考察】
製薬企業は、不足する情報を満たす存在になるか。高い薬剤費に対して、自己負担の軽減だけでなく、医療保険財政への影響を懸念している血液がん患者の期待にいかに応えるか。
患者は自身の疾患・病型に有効な薬を開発する製薬企業に関心があり、大きな期待を持っています。しかし、製薬企業の発信する情報については、「不安感」があるなどの理由で、現状は不足する情報を満たす存在になっていないと考えられます。「不安感」の内容には、製薬企業からの情報が患者に届いていないことによる「理解の不足」が原因と考えられるものもありました。これらは、製薬企業にプロモーションの規制等があり、患者とのコミュニケーションが難しいことが一つの要因になっていると考えられます。
しかし近年、製薬企業は、医学的または科学的な知識をベースに、中立的な立場で疾患や薬についての情報を発信することが、より求められるようになりました。今後、製薬企業からそのような情報が多く発信されることで、患者の「不安感」は次第に「安心感」へと変わっていくことが推察されます。その結果、製薬企業が不足する情報を満たす存在になる可能性は大きいと考えられます。
血液がん患者が治癒を目的に治療する場合、骨髄移植は最も有効な選択肢となります。骨髄移植は通常、強い化学療法を伴うため、患者本人の強い意志が必要な治療となります。また同時に、移植に協力するドナーの存在が欠かせない治療であり、親族に適合者がいない場合は骨髄バンクに登録しているドナーが協力することになります。そのため、骨髄移植は薬による治療とは異なり、医療者や患者本人とそのご家族などの関係者だけでなく、一般社会全体に支えられた治療と言えます。
「かながわ血液がんフォーラム」においても、ドナー登録の普及やドナー提供への感謝の気持ちを発信する場面が多くありました。このように血液がん患者は、一般社会との繋がりを特に大切にしようとするマインドが根底にあると考えられます。今回の調査結果において「医療保険財政に影響するほどの高額な薬価は受け入れにくい」との意見が複数あったのは、このような背景が理由と推察されます。
近年、CAR-T細胞療法など革新的な新薬において高額な薬価が話題になることがあります。ただ、同じくCAR-T細胞療法の中にも、同種CAR-T細胞療法など、コストを念頭においた新薬の話題も出てきており、血液がん患者からの大きな期待が寄せられていると考えられます。
調査概要
調査方法 | ヒアリング調査 |
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調査対象 | 「かながわ血液がんフォーラム(主催:認定NPO法人キャンサーネットジャパン)」に参加した、血液がん患者とその家族 |
有効回答数 | 60サンプル (25~29歳:2%、 40~44歳:2%、 45~49歳:10%、 50~54歳:15%、55~59歳:15%、 60~64歳:20%、 65歳~:35%、 無回答:2%) |
調査時期 | 2019年11月 |
調査主体 | 株式会社インテージヘルスケア クロスソリューション部 |
調査内容 | 血液がん患者の課題や満足度等についての実態調査 |