newsがんゲノム医療に関する医師調査(第6回)

血液による遺伝子パネル検査、メリットは患者負担の軽減
普及への課題は、医師の作業負担軽減や臨床データの蓄積
~ 全国の固形がん診療医1300名に「がんゲノム医療」に関する調査を実施 ~

当社は、全国の固形がん治療医を対象に、がんゲノム医療に関する調査を実施しました。本調査は、「がんゲノム医療元年」と言われた2019年から継続的に実施しています。2021年8月に血液による遺伝子パネル検査※1が保険適用開始となり、その3ヶ月後に実施した今回の調査結果から、同検査の実施状況や、医師の期待と懸念などが明らかになりました。今後、がんゲノム医療を普及させるために解決しなければならない課題などを分析しました。

※1:1回に数百の遺伝子を同時に調べることができる検査

調査結果のポイント(固形がん診療医1300名のうち、がんゲノム医療を実施している病院の勤務医549名の回答より)

  • 包括的ゲノムプロファイリング(CGP)※2を目的とした遺伝子パネル検査を実施した患者の割合がゆるやかな増加傾向にある中、今回初めて聴取した「血液による検査」の実施割合は1.4%
  • 血液による検査が実施されているがん種は、子宮頸がんが最も高く5.1%
  • 血液による検査に期待することとして、45%の医師が「検体採取が容易で、組織の採取が難しい患者も検査可能」、43%が「低侵襲性(患者の負担が少ないこと)」と回答。一方、45%の医師は「臨床データやエビデンス不足」を懸念と感じている
  • 血液による検査を実施している医師の36%が「検査件数の増大」を懸念し、実施していない医師と比較すると13ポイント上回る。実施医は検査内容やその後の治療までの流れを把握した上で、より具体的な期待や懸念を抱いている

※2:Comprehensive Genome Profile(CGP)。1回の検査で、がんに関連する数百の遺伝子について、異常の有無を包括的に把握すること。見つかった遺伝子変異に対して効果が期待できる治療の有無を検討する

1.包括的ゲノムプロファイリング(CGP)を目的とした遺伝子パネル検査を実施した患者の割合は、ゆるやかに増加傾向。その中で、今回初めて聴取した「血液による検査」は1.4%

抗がん剤治療を実施している進行再発固形がん患者のうち、包括的ゲノムプロファイリング(CGP)を目的とした遺伝子パネル検査の実施割合は、2019年の調査開始以降、徐々に増加していることが確認されました。また今回の調査で初めて聴取した血液による遺伝子パネル検査の実施割合は1.4%でした。組織検体による遺伝子パネル検査が保険適用となった2019年6月から約5か月後の調査で1.8%だったことと比較すると、血液による検査は、保険適用開始から約3か月後の段階で、まだ様子見の医師がいることも想定される中、比較的順調に浸透していると考えられます。

2.血液による遺伝子パネル検査を実施したがん種では、子宮頸がんが5.1%と最も高い結果に

血液による遺伝子パネル検査が使われ始めたがん種を確認したところ、子宮頸がんが5.1%と最も高く、次いで小児固形がん3.1%、悪性黒色腫3.0%という結果でした。

3.血液による遺伝子パネル検査に医師が期待することの上位は「低侵襲性(患者の負担が少ないこと)」。懸念点として最も多いのは「臨床データの蓄積・エビデンスが十分でないこと」

血液による遺伝子パネル検査に対する期待については、45%の医師が「検体採取が容易、組織の生体検査が難しい患者でも検査可能」、44%が「検体採取が容易、検体量が確保しやすい」、43%が「低侵襲で、患者負担を軽減できる」を挙げています。一方、懸念点については、45%が「臨床データの蓄積・エビデンスがまだ十分ではない」としています。血液は組織検体に比べて、検体採取の容易さや患者の負担軽減といったメリットを期待できる一方で、保険適用開始から間もないことから、臨床データやエビデンスの不十分さや検査結果の正確性に懸念を抱いていることが示唆されます。

さらに、血液による遺伝子検査の実施・未実施別に、それぞれの期待点と懸念点の違いを比較しました。期待する点としては、実施している医師は「検査のオーダーから結果返却までの期間(TAT)※3の短縮(31%)」や「腫瘍全体での遺伝子異常の検出のしやすさ(32%)」を挙げる割合が高く、実施していない医師では「低侵襲で患者負担が軽減(45%)」が高い結果となりました。
また懸念点については、実施医は「検査件数の増大(36%)」、未実施医は「データ・エビデンス不足(47%)」を挙げる割合が高く、実施医は未実施医に比べて、検査の内容やその後の治療までの流れを把握した上で、より具体的な期待や懸念を抱いていることが示唆されました。

※3:Turnaround Time(TAT)

考察

 2019年6月に保険適用となった組織検体での遺伝子パネル検査については、検体採取時の患者さんの負担が大きいことや、検査結果の返却までの期間(TAT)の長さが懸念点として挙がっていました。昨年8月に保険適用となった血液による検査は、組織検体と比較するとそれらの懸念が少く、メリットが大きいと言えます。今後の普及のためには、「現在実施している医師が今後も検査を続け、さらに対象患者をひろげること」と「未実施の医師が新たに始めること」が必要と考えられます。

 それでは、血液による検査の普及に、どのような課題があるのでしょうか。現在実施している医師の36%は、「検体採取が容易になることによる検査件数の増大」に懸念を抱いていることが示されました。遺伝子パネル検査の後に義務付けられている専門家による検討会議(いわゆるエキスパートパネル※4)に参加した医師の89%が「(会議を)負担に感じている」という結果※5からも、「検査件数の増大」が医師の負担増という懸念につながっているのではないかと推察できます。

 また未実施の医師の45%が「低侵襲性」や「検体採取の容易さ」に期待をする一方で、47%が「データ・エビデンス不足」、38%が「検出感度が低い可能性がある」を挙げています。血液による検査に対する期待感はあるものの、保険適用が始まって間もないということもあり、一部には抵抗感があることが示唆されました。

 これらの課題に対して、エキスパートパネルでの検討の効率化や時間の短縮を図るといった取り組みの検討なども重要と考えられます。血液による検査が保険適用となるには、「がん組織による包括的ゲノムプロファイリング(CGP)が困難な場合」という条件付きではあるものの、結果返却までの期間(TAT)が短い検査で、早いタイミングで治療を開始できるということは患者さんにとってもメリットになると考えられます。そうして検査回数が増えることで、臨床データやエビデンスが蓄積され、検査の信頼性も高まり、実施の検討や普及にもつながることが期待されます。

 今後、血液検体による遺伝子パネル検査が、医師、患者さんの双方にとって大きなメリットのある新しい選択肢としてどのように定着していくか、その動向が注目されます。

分析担当:メディカル・ソリューション部  五十嵐 彩香

※4:がん遺伝子パネル検査で得られた結果が、臨床上どのような意味を持つのかを解釈するための会議
※5:2021年6月実施、第5回調査より

調査概要

調査目的
がんゲノム医療/遺伝子パネル検査の浸透度把握
調査方法インターネット調査
調査地域全国
調査対象固形がん治療医
有効回答数1,333サンプル
(うち、がんゲノム医療を実施している病院の勤務医は549サンプル)
調査実施期間2021年11月(6回目)
(本調査は、遺伝子パネル検査が保険適用開始となった2019年から継続的に実施し、5回目はその2年後の2021年6月に実施)
調査主体株式会社インテージヘルスケア メディカル・ソリューション部
プレスリリース
株式会社インテージヘルスケア

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